構成とは何か、科学との共通点とは?
芸術系構成領域 上浦佑太先生インタビュー


 

部屋の中央に近づくにつれて天井から正方形があらわれ、遠ざかると正方形がしだいに天井に沈み込んでゆくーこれはIIIS棟のエントランスにある作品です。作者は「構成」を専門とする、筑波大学芸術系の上浦佑太先生。構成?と首をかしげる人もいるでしょう。私も分野の名前には馴染みがありませんでしたが、作品にはどうしようもなく惹かれてしまいます。そこで上浦先生に「構成」という分野について聞いてみることにしました。

IIIS棟のエントランスにある上浦先生の作品「Revolve」 Photo: Takumi Ota

「構成」とはなにか

「構成の捉え方にも色々あるのですが、私は構成学を『造形表現の可能性を拡張するための研究分野』と捉えています。単に新しい方法を開拓するだけではなく、それによりどんな美を生み出すことができるのかも重要です。構成分野の研究者は美の原理を探ることにも大きな関心を寄せてきました」

例えばシンメトリーに裾野が広がる富士山や幾何学模様のクジャクの羽を見たとき、私たちは誰しも美しいと感じます。でも、それはどうしてなのでしょうか。私たちが何かを見て美しいと感じるとき、そこにはきっと共通点があるはずです。その共通点を美の原理と捉えて解明したり、更にはそれを応用した表現方法や教育方法を提案したりするのが構成学の目的の一つなのだと上浦先生は語ります。

例えば、上浦先生のこれらの作品は、縦横比が2:1のキャンバスに数理的なプロセスで円弧を当てはめて制作されたものです。整数比の特徴を生かして線を引くのは大きな制約ですが、それが画面に気持ちの良いリズムを生み出す手助けになることもあるといいます。雪の結晶など、自然界には数的秩序に従った美しい形が数多く見られます。この作品もまた、数的秩序の持つ普遍性を美の秩序として取り込んだ作品だと言えます。

“1806-1(左),1806-2(右)” 2018 acrylic gouashe on canvas 120 x 60 cm (上浦佑太構成研究室ウェブサイトより)

上浦先生の作品は平面構成だけにとどまりません。平面、立体、使う素材も紙、金属、木材、アクリル樹脂などさまざまです。

“1602-1″ 2016 W45 x D90 x H180cm、”1602-2″ 2016 W120 x D45 x H180cm、Wood panel, Steel, Stainless steel (上浦佑太構成研究室ウェブサイトより)正方形の板(4箇所に穴をあけたもの)と金属製丸棒を複数用意し、板の穴に丸棒を通すだけでできる形を模索した作品。接着固定などはせず、摩擦とバランスだけで成立させている。
“1702-1″ 2017 W6 x D6 x H48cm acrylic resin (上浦佑太構成研究室ウェブサイトより)無色透明のアクリルの直方体2つと、色のついた薄いアクリル板2つを使って立方体のユニットを作り、これを転がしながら8段積み重ねた。反射により意外なところに色の帯が現れる。

これらの作品のように、誰もが知っている技法や素材を改めて見つめ直し、色や形の組み合わせを様々に試したり、素材の性質をじっくり観察したりして無邪気にとことん遊ぶ。そうして色々試しているうちに見落としていた可能性に気づき、そこから新たな表現が展開するのも構成の醍醐味なのだそうです。

構成学と基礎科学の意外な共通点

「美の原理」という言葉を聞いた時、宇宙や自然、生命の原理を追求する営みである科学とどこか似ていると感じました。そのことを話すと、上浦先生は構成学の学問的な立ち位置について、おもしろい例えを教えてくれました。上浦先生によると、鑑賞者や使用者ありきで行われる造形行為は科学の分野で例えると臨床医学や応用工学のような「応用科学」にあたるものであり、一方で「基礎科学」にあたるのが構成学なのだそうです。芸術でも科学でも、あらゆる分野において発展させる元の材料である基礎研究がなければ、応用は成し得ません。逆に基礎となる原理を追求していけば、応用の可能性が一気に開花する、と言い換えることもできます。

上浦先生はさらに続けます。「構成学は、直接何かの役に立とうとか、何かを伝えたいという性質のものではなく、新しい表現を生みだすための知的な基盤を整備・拡張する学問領域だと思っています」。この姿勢もまた、基礎科学と重なる部分が大きいのではないでしょうか。しかし、共通点はそれだけではありませんでした。構成学と基礎科学、そのどちらもが大変な局面を迎えているのです。

危機、迫る。

上浦先生は、構成学のような基礎研究的なアプローチは理解を得るのが難しい状況になりつつあるのではないかといいます。「表現の世界についていえば、基本的に共感や反発を生む装置として作品を機能させることが前提とされるケースが大半です。もちろんアートにはそういう楽しみ方もありますが、何でもかんでも『どんなメッセージが内包されているのか』を読み解くスタイルで価値判断されてしまうと、そういう取り組みではない私たちのような表現は蚊帳の外になってしまう危険性があります。純粋な造形的興味だけに従って探求を進める実験的スタンスの制作は、鑑賞者ありきで制作されるタイプの作品とは向いている方向が初めから違うのですが、同業である芸術関係者からも『それが何の役に立つのか』『メッセージがなければ表現とは言えない』などと批判されることがしばしばあります」。この問題については研究費用の面でも同様で、基礎研究的なテーマを扱う場合何に役立つのかを書いて申請しなければ研究資金を得づらい感触があると上浦先生は話します。

この傾向は日本の科学においてもよく問題視されています。社会の役に立つ研究やすぐに応用できそうな研究に研究費が分配されやすくなっているのです(柳沢機構長インタビュー) 。このことを伝えると、造形表現の分野では事態がさらに深刻かもしれないという答えが返ってきました。「科学においては、近ごろ日本人研究者が毎年のようにノーベル賞を受賞し、彼らの多くが基礎研究への支援の重要性を繰り返し訴えていますよね。しかし造形表現において基礎研究への投資の拡充が重要だという話は聞いたことがありません。資源のない日本では創造性を育むことが間違いなく重要なはずで、造形表現における基礎研究も本丸の一つではないかと思うのですが」

構成学のこれから、科学のこれから

これまで人々の遊び心や自由な発想と実験精神によって造形表現の世界が発展してきました。現代のように役に立つことやメッセージ性を重視する傾向が続いたとして、美の原理の追求や創造のプロセスを開拓する姿勢が廃れてしまったら、世界が変わってしまうような気がして、私は強い危機感を覚えました。そうなってしまう前に何かできることはないか、最後に上浦先生の取り組みについて聞いてみました。

「問題を解決すること、つまりものごとをー(マイナス)から0にする取り組みはもちろん尊いですが、いつもそれだけに目を向けていたら息苦しくて仕方ないし、減点法で世の中や自分を眺めるクセがついてしまったらつまらないと思うのです。もう少し0から+(プラス)の部分、つまり何の役に立つのか分からないけど無性にワクワクするような対象に素直に目を向けてみてはどうかと思います。私自身、大学で構成学に出会うまでは表現というと何か深刻なものをモチーフにした方が良いのだろうという無意識の思い込みがあったのですが、構成学はそういうものとは無縁だったため、たまたまそれ以外のフィールドが広がっていることに気付くことが出来ました。構成学を専門としない学生にとっても、この0から+のフィールドをきちんと認識しておくことは大きな糧になるはずです。こういう見方を少しずつでも伝えて種まきしていくことが、教育の現場でできることだと思っています。それと、語るだけではなかなか伝わらないので『0から+』を具体的に実践してもらう場として表現の拡張展という授業成果展を毎年学内で開催しています。メッセージ性を一切求められない展覧会にみな始めは戸惑いながらも、趣旨を理解してなんとか作品に結びつけます。メッセージがないことでかえって個々のこだわりが垣間見える部分もあり、思いのほか人間くさい愉快な展覧会になっていますので、一見地味な基礎研究分野を楽しく知ってもらうのに有効な機会になっていると思います。ゆくゆくはもっと規模を大きくして都内の空間で開催したいなという野望も密かに持っています」

「0から+」の部分は芸術以外の分野でも非常に重要です。科学でいえば、社会貢献や問題解決という動機ではなく、純粋な探究心で続けた研究の成果や偶然の発見が、数十年後に役に立つということがよくあります。例えば、柳沢機構長の研究グループが見つけた「オレキシン」という脳内物質。はじめからこの物質に狙いを定めていたわけではなく、たまたま実験で最初に見つかってきたものでした。その後オレキシンには覚醒を維持するはたらきがあることを明らかにして約15年、これをターゲットにすることで自然な眠りを誘う新しいタイプの睡眠薬として実を結びました。このように純粋な探究心で追い求めたことが時として社会貢献や問題解決に着地することもあるのです。

0から+へ。表現の可能性を追求する上浦先生の挑戦はこれからも続いていきます。みなさんも遊ぶこと、楽しむことを意識してみてはいかがでしょうか。普段のありふれた世界が違った表情を見せてくれるかもしれません。

上浦佑太構成研究室ウェブサイトはこちら

(IIIS広報担当 小林沙羅)

【番外編】IIISアート作品紹介「Dorveille」:焼き物だからこそ表現できることがある ~齋藤敏寿さん~


IIIS研究棟の外構に設置された焼き物の作品〈archetype00021〉

前回の記事では、眠りに入る瞬間の顕在意識と潜在意識のはざまの時間をテーマにした「Dorveille」を紹介しました。哲学的とも言えるこの作品をつくったのは齋藤敏寿さん(筑波大学芸術系准教授)です。

齋藤さんは、陶による造形の独自性とは何かと、コミュニケーションツールとなる作陶を活用した教育プログラムの構築について研究をしています。なぜ焼き物を使った芸術表現にこだわるのか、お話を伺いました。 “【番外編】IIISアート作品紹介「Dorveille」:焼き物だからこそ表現できることがある ~齋藤敏寿さん~” の続きを読む

IIISアート作品紹介「Dorveille」焼き物だからこそ表現できることがある~齋藤敏寿さん~


IIISには全部で6種類の芸術作品が展示されています。今日は、そのひとつである「Dorveille」をご紹介します。この作品では、何やら短い棒のようなものが雑然と並べられていますが、いったい何を意味しているのでしょうか。作品を手がけた、陶芸を専門とする齋藤敏寿さん(筑波大学芸術系准教授)は「誰もが一度は経験したことのある感覚をかたちにした」と語ります。 “IIISアート作品紹介「Dorveille」焼き物だからこそ表現できることがある~齋藤敏寿さん~” の続きを読む

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すぴー…すぴー…すぴー…番外編


IIISの研究者に、安らぎと、新たなインスピレーションを与えているアート作品【すぴーすぴーすぴー】。作者である小野養豚んさんは、美大生のときにこのテーマを選択して以来、ずっとブタの作品ばかりを作り続けています。なぜ、そこまでブタにこだわるのでしょうか。本編に続き、インタビュー番外編。 IIISアート作品紹介
すぴー…すぴー…すぴー…番外編” の
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IIISアート作品紹介
すぴー…すぴー…すぴー…


IIISの1階から4階は、「研究者が自由に交流できるように」と、螺旋階段のみでつながるオープンな吹き抜け構造でできています。そのスペースでひときわ目を引くのが、空を飛ぶ巨大なブタさんたち。ひとつひとつをよく見てみると、大きなブタと小さな子ブタが心地よさそうに並んで眠っています。眺めているだけでなんだかほっこりするこの展示。いったい何を表しているのでしょうか?説明ボードにはこう書いてあります。

【すぴー...すぴー…すぴー】
眠りに就いてそのまま夢の世界へ飛んでゆく母ぶたと子ぶた すぴーと寝息を立てて肌を触れあわせられる幸せな時間

IIISアート作品紹介
すぴー…すぴー…すぴー…” の
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