論文紹介:運動による体内時計への影響とは?


筑波大学大学院人間総合科学研究科の田中 喜晃さん(IIIS 徳山研究室所属)、佐藤 誠 教授、徳山 薫平 教授らIIISの研究チームと、広島大学、東京医科大学、城西大学、筑波国際大学との共同研究成果が、4月8日付のJournal of Applied Physiology誌に掲載されました。

Effect of single bout of exercise on clock gene expression in human leukocyte.

(単回運動がヒト白血球中の時計遺伝子発現に及ぼす影響)

生物は、24時間の周期に合わせた体のリズム(概日リズム)を作り出す体内時計を持っています。哺乳類では脳の視交叉上核というところに中枢時計があるほか、体のさまざまな器官・組織にもそれぞれの末梢時計があります。運動が末梢時計の機能に与える影響は、マウスなどのげっ歯類ではよく知られているものの、ヒトでは十分に調べられていませんでした。体内時計の機能は、時計遺伝子と呼ばれる複数の遺伝子によって調節されています。そこで本研究では、研究協力者に一定強度の運動を行ってもらい、末梢の時計遺伝子の発現に与える影響を調べました。

研究チームが注目したのは、血液に含まれる白血球です。白血球は身体のさまざまな器官での遺伝子発現を非常によく反映している上に、採血によって容易にかつ研究協力者の負担も比較的少なく繰り返し検体を採取できます。健康な成人男性11名が、1人につき3パターンの実験に参加しました。

  1. 運動なし(対照実験):特別な運動をせず、座ったまま安静に過ごす
  2. 朝運動:7:00から一定強度の運動を1時間行う
  3. 午後運動:16:00から2(朝運動)と同じ運動を1時間行う

どの実験でも、運動以外の条件は同じです。研究協力者は実験前日から2泊3日、室温、湿度、明るさを一定に保った代謝計測室(メタボリックチャンバー)内で過ごし、実験当日の6:00から翌朝6:00まで、所定の間隔で計8回の採血を行いました。そして、血液サンプル中の白血球からRNAを抽出し、時計遺伝子として知られる7種類の遺伝子(Bmal1, Clock, Per1, Per2, Per3, Cry1, Cry2)について、経時的な発現量の変化を運動なしの時を基準に比較しました。

その結果、実験2で朝に運動を行った後ではBmal1遺伝子とCry1遺伝子の発現が、実験3で午後に運動を行った後ではBmal1遺伝子の発現がそれぞれ増加していました。さらに、Bmal1遺伝子については1日を通しての発現ピーク時間が「朝運動」では早まり、「午後運動」では遅れることがわかりました。運動なしの場合、Bmal1遺伝子の発現は16:16前後にピークを迎えていたことから、運動を行ったタイミングが夕方より前か後かによって、概日リズムに異なる影響があるのかもしれません。解析対象となったその他の時計遺伝子については、発現量や発現のピーク時間に有意な変化は見られませんでした。

本研究により、1日の中で運動を行う時間帯によって、末梢での時計遺伝子の発現が変化することが示されました。著者の田中さんは、「体内時計のずれによって、がんや2型糖尿病、うつ病などのリスクが増えることが知られています。体内時計のずれを最も改善する運動の時間帯をさらに詳しく解明するために、今後は様々な時間帯における運動の効果を検討していきたいと考えています」と話します。

今後研究が進めば、もしかすると体内時計との関係から、健康的に運動を行うベストな時間帯や頻度などもわかってくるかもしれません。研究の進展を楽しみにお待ちください!