卒業生インタビュー・谷田 誠浩さん


 

「くすりをイチからデザインできるようになりたい」と、悩み抜いた末に修士課程から博士課程への進学を選んで3年。長瀬・沓村研究室の谷田誠浩さんがめでたく博士の学位を得てIIISを巣立ちます。博士課程での研究が「数理物質科学研究科長表彰」を受け、創薬科学者として順風満帆のスタートを切る彼に、IIISでの5年間を振り返ってもらいました。

—博士課程ではどんな研究をしていましたか?

 2報の学位論文のうち1報は、オレキシン受容体拮抗薬に関する研究です。オレキシンの受容体に結合してその働きを阻害する物質で、すでに不眠症治療薬として使われているものがあります。僕らはモルヒネなどと同じ、モルヒナンという構造を持つ化合物を扱っているのですが、そのタイプの化合物で初めてオレキシン受容体拮抗薬として働くものを見つけました。

もう1つは有機化合物の合成反応に関する研究です。ある条件下でモルヒナンが別の構造に形が変わっていくという、これまで知られていなかった面白い反応を報告しました。できた化合物自体も創薬の観点から有用ですし、合成の観点からはモルヒナンを扱う上で、こういう反応条件だと化合物の骨格構造自体が変化してしまうという面白いことが起こるよ、という新しい例を示すことができました。

その他には鎮痛薬として使われることの多い、オピオイド受容体作動薬の研究もしていました。オピオイド受容体にはμ(ミュー)、δ(デルタ)・κ(カッパ)の3種類があって、僕が取り組んでいたのはκ受容体に選択的に作用する化合物を作る研究です。例えばμ受容体に作用するモルヒネは強い鎮痛作用がありますが、同時に依存性や、便秘、嘔吐などの副作用を持っています。δまたはκ受容体に選択的に作用するものができれば、これらの副作用が少ない新しい鎮痛薬になるのではないかと期待されているんです。

—1人でいくつもの研究プロジェクトを担当していたんですね!

 複数のプロジェクトを並行して、研究室のいろいろな人で分担してやっていくというのが長瀬・沓村研究室のスタイルなんです。他の学生も自分自身の研究テーマに加えて、IIISのテーマとして睡眠に関わる研究、例えばナルコレプシーの治療薬となるオレキシン受容体作動薬の研究などにも取り組んでいますよ。

—修士課程も合わせた大学院での5年間で一番の学びは何でしたか?

 「くすりを作る」ということは本当に複合領域で、化学や薬理学、生物学、神経科学などの創薬に関わるあらゆる分野の研究者とコミュニケーションがしっかりできるように自分の知識を広げることが大切であると感じることができたのが一番の学びだと思います。学部では有機合成を学んでいて、大学院で初めて創薬科学の世界に飛び込んだ時は、出来上がった化合物の性質を評価するためにどういう細胞・動物の試験が必要で、より良い化合物を生み出すためにはどういう構造変換を行っていけばよいのかというのが全くわかりませんでした。そこを理解するのが一番大変でしたが、創薬のプロである長瀬研究室の先生方、さらにIIISの生物系の研究をしている他の研究室の先生方の指導のおかげで、創薬科学と薬理学全般の知識・経験を身につけることができました。そこが大学院の5年間で有機合成研究を行っているだけでは得られなかった自分の強みだと感じています。

—博士課程修了後の進路は?

4月からは製薬企業で合成研究職として働きます。やること自体は今までと変わらず、「くすりの種を見つける」ということです。くすりの候補となる新しい化合物を作り、性質を調べ、その結果を基に構造最適化を行うことでより良い開発候補化合物を見出す、ということを行います。まずは合成化学の分野で即戦力として期待に応えていくこと、そしてIIISで学んだ薬理学的な知識も活かして、より踏み込んだ研究開発上の提案もできるような、信頼される研究員を目指したいです。

「企業で研鑽を積んで、創薬科学者として大きくなった姿を研究室の先生方に見せたい」という谷田さん。自分が作った薬で病に苦しむ世界中の患者さんを救いたい、という夢に向かって、これからも努力を続けてくださいね!ご卒業、おめでとうございます!

 

修士課程修了時のインタビュー:

http://blog.wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/2017/03/31/卒業生インタビュー・谷田誠浩さん/

長瀬・沓村研究室HP:

http://nagase.wpi-iiis.tsukuba.ac.jp