「仮説通りにいかなかったときが一番面白い」睡眠とモチベーションの関係の謎を解き明かす IIIS助教・大石陽さんインタビュー


やる気がないときには眠くなるのに、何かに夢中になるとそれまでの眠気が嘘だったかのように目がさえます。

皆さんもそんな経験をしたことはないでしょうか?

この睡眠覚醒の状態というのは、モチベーションによって変化します。あたりまえのように聞こえますが、実はこの二つがどのような関係にあるのか長年謎のままでした。2017年9月、ラザルス研究室の大石陽助教は睡眠覚醒とモチベーションの関係の謎を解き明かす扉を開きました。

――モチベーションと睡眠はどのように結びついているのでしょうか?

脳にはモチベーションをつかさどる側坐核という部位があります。その部位にあるアデノシン受容体を持つ細胞群が睡眠を制御することを今回新たに発見しました。

――どのような実験を行ったのでしょうか?

光をあてることで特定の細胞を操ることができるオプトジェネティクスという手法を使って、側坐核のアデノシン受容体を持つ神経細胞を活性化させたときに睡眠量がどうなるかという実験をしました。

――どのような結果だったのでしょうか。

睡眠の量が明らかに増加していました。逆に、側坐核の神経細胞を抑制させると、睡眠の量が大きく減少していたのです。

――側坐核の神経細胞が睡眠覚醒を制御する上で大事な役割を果たしていることがわかったのですね。このときに、マウスのモチベーションはあがっているのでしょうか。

その可能性を検討するために、こんな実験をしています。マウスに、大好物のチョコレートを与えたり、おもちゃを与えたり、飼育ケージに異性のマウスをいれてみたんです。そうすると、通常の状態に比べ明らかに睡眠量が低下していた。このときに、マウスの側坐核の神経細胞の活動をみてみると、見事に抑制されていました。

――まさに、好きなことに夢中になってつい夜更かししてしまう人間と同じですね。この研究により、モチベーションと睡眠との関係が解き明かされたと言ってもいいのでしょうか?

今回の研究では、睡眠覚醒を制御する上で側坐核のアデノシン受容体を持つ細胞が重要であることを明らかにしましたが、脳内で何がおきているかその多くは謎のままです。また、眠っているときには大脳皮質の脳波が変化することが知られていますが、側坐核がその脳波の変化とどう関係しているのかもわかっていません。今後、より詳細にメカニズムが解き明かされていくことで、睡眠障害に悩む人への治療法の開発にもつながっていく可能性があります。

――今後が楽しみな研究というわけですね。大石さんはなぜ研究の道に進んだのでしょうか。

高校生の時にリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』を読んで、生物の世界の面白さに魅了されました。そのまま大学に進学し、生物学の研究を行っていたのですが、ふと「人生の三分の一も眠りに費やすことに何の意味があるのか」と疑問に思ったのです。睡眠が生きるのに必要ならば、その理由を知りたいと。

――睡眠に対する素朴な疑問が研究の道に進むきっかけになったのですね。研究者として生きていくと決めたのはいつ頃なのでしょう。

研究者になることを本格的に意識しはじめたのは博士課程へ進学してからでした。繰り返し実験を行っていく中で、世界でまだ誰も知らないことを解き明かしていく研究に面白さを感じていました。

一方で、競争が激しいこの科学業界の中で、自分が研究者としてやっていけるのか常に不安がつきまといました。「論文を書けるだけの面白い実験結果がでなかったらどうしよう」という感情があって、将来を思い描くことができませんでした。

一時は知財などの仕事に就くことも考えたのですが、それでも粘り強く実験を続けていったら、次第に実験結果もでてくるようになりました。気がついたら今も研究を続けていました。

――はっきりと将来を決めていたわけではないのですね。研究のどんなところが好きなのでしょう。

研究者の仕事とは、仮説をたてて実験を行い、結果を客観的かつ論理的に解釈し、そのデータをもとにさらなる仮説を立てることです。特に「仮説を立てて検証すること」は研究の醍醐味だと思いますし、さらに個人的には「仮説通りにいかなかったときになぜ間違っていたのか」を考えることが好きです。

――仮説と違うことがでてきたら楽しいと感じるとは、さすが研究者ですね。大石さんが研究を行う上で大切にしていることは何でしょう。

「正しく実験すること」ですね。常に自分の仮説が正しいかどうか一目でわかるような実験をし、あらゆる可能性を考慮に入れ、様々な角度からの実験や再現実験も行っています。自分の力を過信せずに実験を何度も重ねて確かめているからこそ、実験結果を拠り所として、さらなる仮説検証ができるようになります。

口で言うほど簡単なことではなく、ここ数年で正しく実験ができているという実感を持てるようになりました。そこから研究者としての自信がつきました。

また、科学技術は先人たちが何十年、何百年という時をかけて積み上げてき膨大な発見・成果の上に成り立つものなので、実験技術や理論について学ぶことが大切です。

――哲学者アイザック・ニュートンの言葉、「巨人の肩に立つ」という言葉に集約されるように、自然科学の世界でも先人の肩に乗ることが大切なのですね。最後に、研究を行いたいと思っている学生にメッセージはありますか?

見聞を広めたり、好きなものや得意なことを見つけることが豊かに生きていく上で重要だと考えています。

――大石さんの場合、好きなことであり得意なことでもある研究が現在の職になっているということを考えると、非常に説得力がありますね。今日はありがとうございました。

<インタビューを終えて>

記者は哲学を専攻しようとしていて、根本的な問いである「人間とは何か」という問いの答えを追い求めたいと思っています。大石さんの「睡眠とは何か」という問いも突き詰めれば「人間とは何か」という問いに行き着くので、同じことを知りたいのだと共感する場面が多々ありました。好きなことを追い続け、豊かな人生にしていきたいと願うばかりです。

取材の後、大石陽さん(左)と2ショット。文系ながら理系の話にワクワクしました!

ライター:建内亮太(筑波大学新聞)、編集:樋江井哲郎(IIIS広報担当)