IIISアート作品紹介「Dorveille」焼き物だからこそ表現できることがある~齋藤敏寿さん~


IIISには全部で6種類の芸術作品が展示されています。今日は、そのひとつである「Dorveille」をご紹介します。この作品では、何やら短い棒のようなものが雑然と並べられていますが、いったい何を意味しているのでしょうか。作品を手がけた、陶芸を専門とする齋藤敏寿さん(筑波大学芸術系准教授)は「誰もが一度は経験したことのある感覚をかたちにした」と語ります。

寝入る瞬間の不思議な感覚をかたち

― この展示、いったい何を表しているのでしょうか?

顕在意識と潜在意識のはざまにある不思議な時間のかたちを表しています。皆さんも経験があると思うのですが、眠りに入る直前って、いろいろな考えが浮かんだり、昔の記憶が蘇ったり、あるいは鮮明なイメージがフラッシュすることがあると思います。その感覚を、191個の焼き物を使って表現しました。

― 私もふとんに入ってからよく考えごとをします。寝転がっていると良いアイデアが生まれて、「明日の仕事に活かしてみよう!」と思ったりします。

僕は、アイデアを思いついたときに限って、眠って忘れてしまうことが多いのですが(笑)。この展示では、右側部分が起きている時の顕在意識を表していて、左側にいくにつれて眠りかけてから表面化してくるような潜在意識を表しています。もちろん、これらの意識には具体的なかたちがあるわけではないのですが、僕が主観的に感じたことを具現化したのです。

インタビューに答える齋藤敏寿さん

焼き物だからこそ表現できることがある

― 私たちがふだん自覚している意識が顕在意識で、その奥には過去の淡い思い出とかモヤモヤした気持ちとか、潜在意識がありますよね。眠る瞬間になってはじめて、その潜在意識がでてくるというのは私も共感できます。作品を詳細にみてみると、右側の顕在意識のところは金属のようなシャープな色に、左側の潜在意識にいくほど金属が溶けて固まったような焼き物になっています。これらにも顕在意識と潜在意識が表されているような気がします。

よく気がつきました(笑)。一つひとつの焼き物にも、意識の中にある心理みたいなものを落とし込んでいます。こういう表現って、焼き物だからこそできることだと考えています。焼き物は、はじめに土をこねてかたちを作り、1200℃〜1300℃に達する窯で焼くことで出来上がるのですが、同じベースの土を使って同じ温度で焼いたとしても、土の中にある酸化金属(二酸化マンガンや酸化コバルト、酸化鉄etc.)の分量割合が少しでも変われば、全然違う焼き物になるのです。例えば、土の中にある長石や珪石の分量を変えることで釉薬(ゆうやく)といってガラス質になったり、酸化金属をいれると色がついたり熔けたりといったように。この作品で言うと、左側、つまり潜在意識のほうへいけばいくほど、酸化金属の割合を増やした焼き物になっているので、マットでダークな色や熔けた様になっています。分量割合を変えたから変化するっていう事実もあるのですが、その変化の仕方には情緒的なものを感じます。こういった焼き物の性質が、人間の深層心理みたいなものを表すのに適していると思っています。

(左)潜在意識を表す焼き物、(右)顕在意識を表す焼き物

スケッチから生まれたアイデア、愛着の持てる作品に

― 微妙な成分の違いで出来上がってくるものがこんなにも違うですね。確かに、人間の複雑な心理と同じような感覚はあります。このアイデアは何がきっかけで生まれたですか。

2014年の4月に筑波大学の芸術系長とIIISの柳沢先生が集まる会議に呼ばれ、そこで柳沢先生から新しい研究棟を建てる構想を聞きました。柳沢先生は、アメリカでの研究生活が長かったことから、研究活動を促進するための空間づくりをとても大切にされていて、IIISの建物の中にもアートをとりいれたいという話をしていました。その話を聞いた時は、自分が担当するかは決まっていなかったのですが、「そういえば寝入る瞬間ってなんでいろいろな思いが出てくるんだろう?」と考えながら、なんとなく落書きというか、スケッチしていました。本当は会議をメモしておかないといけないんですけどね(笑)。

会議のときにスケッチしたメモ

― このスケッチの時点で、実際に出来上がった作品とほとんど同じ。どのようなプロセスで形にしていったのですか?

正直、具体化するまでにだいぶ苦労しました(苦笑)。焼き物を壁にはりつけるとなると、壊れたらいけないとか、重量制限とかがあって、最初にプランを提案したときは、周りから「無理ですよ」と言われました。でも、柳沢先生の熱い思いもありましたし、何度もディスカッションを重ねていくうちになんとか実現にこぎつけました。そこから、芸術系の学生たちと一緒に企画をし、この研究施設で働く人たちと一緒に焼き物を作るワークショップをしました。そうすることで、作品への愛着が持てるようになるかなと。

IIIS棟を実際に使う人たちと一緒に焼き物を作った

全ての命にありがとうという気持ちを込めて作った

― 研究機構で働く人たちの思いもそこに組み込まれているのですね。顕在意識と潜在意識、研究者の思いが込められていることなど、これまでいろいろなお話を伺ったのですが、先生ご自身は、この作品を見た方々に感じてもらいたいことはありますか?

 作品を見て感じることは人それぞれなので、何を感じてもらってもいいと思っています。なんだろなと思ってくれるだけでいいし、むしろ嫌いだと思ってくれてもいい。見た人にとって何かしらの刺激になってくれれば。もちろん、僕の思いはあることにはあるんですが。

 ― それはなんですか?

野暮ったくなるのではあまり言いたくないのですが、命の鎮魂の気持ちを込めました。研究者は魂を込めて研究をして、その研究はたくさんのマウスの命によって支えられている。命を使ってなにしているのだという批判もあるかもしれませんが、様々な命のおかげで少しずつ研究が進んでいく。だから、全ての命にありがとうという気持ちを込めて作ったのです。「作品のどこに?」というわけではなく、そういう思いで作っていました。

私たちの研究は、いろいろな人々の思いや、捧げられた命の上で成り立っているというのを改めて実感しました。つい先日、IIISを訪れた人たちが「研究というと無機質に感じるけど、IIISの研究者をみると睡眠を追求していくという熱い思いと、命への敬意を感じた」と言っていたのを思い出しました。これからも、この心を大切にしながら研究活動を推進していきたいですね。

次回は齋藤さんのインタビュー番外編をお送りします。このブログでもちらっとその片鱗を感じられたと思うのですが、齋藤さんは人間の深層心理のようなもの、集合的無意識(アーキタイプ)を焼き物で表現することに挑戦しています。次回は、その活動内容をご紹介します。お楽しみに!

齋藤敏寿研究室:http://www.geijutsu.tsukuba.ac.jp/~toshijulab/

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