林悠准教授インタビュー
「睡眠とはこのためにあったのか」と、誰もが納得する答えをだしていきたい -後編-


平成29年度文部科学省大臣表彰・若手科学者賞を受賞した林悠准教授。なぜ、彼は若くして大きな成果を残せているのでしょうか。「生物オタク」だった子どものころの話から研究者として活躍し始めるまでの話を聞きながら、その秘密を探りました。そこには、キャリアに固執せず、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」という思いで研究に打ち込む姿勢がありました。前編に続き、インタビュー後編です。

ー なぜ、サイエンスの道に?

幼稚園の年長の時、父の仕事の関係でアメリカに引っ越しました。ロードアイランド州に2年間、テキサス州に3年間住んでいたのですが、どちらも自然がとても豊かで、そこでは毎日のように投網や魚釣りで魚や生き物を採集していました。遊んでいるうちに自然と生物への興味が芽生え、いつの間にか生物オタクになっていました。

ー 投網がきかっけで生物が好きになったとは(笑)。そこから、どういう経緯で睡眠研究をすることになったんですか。

紆余曲折あったんです(笑)。大学生のときに最初に選んだ研究室では、睡眠とは関係がない分野の研究をしていて、メインの研究室テーマとしてミツバチの社会性行動を分子レベルで解き明かそうとしていました。ハチには、働きバチと女王バチがいるんですが、働きバチは年齢を経るごとに請け負う仕事が変わります。巣の中で育児を担当する育児バチから始まり、少し成長すると門番バチに、そして最後には採餌バチへと役割が変わっていきます。なぜ、同じ個体なのに加齢に伴って行動が変わっていくのか、その謎に魅力を感じてその研究室へ進みました。研究室に実際入ってみると、ミツバチ以外にも色々な動物を使って、興味深いテーマに取り組んでいることがわかりました。最終的には、研究室の先輩が導入したばかりの線虫という動物が面白そうだと思い、線虫をテーマに選びました。大学院の5年間は、ずっと線虫を用いて脳発達のメカニズムの研究に没頭しました。ただ、3年目あたりから、マウスを使って複雑な脳の働きについても研究してみたいとはうっすら考えていました。

― 脳発達の研究をしていたんですね。今やっている睡眠とは全然違うテーマな気がするのですが。

一見、全然関係ないように見えますが、睡眠は脳発達と密接にリンクしています。1966年にサイエンスに発表された仕事によると、ヒトの睡眠は一生の間に大きく変化します。特に、レム睡眠は脳が急速に発達していく赤ちゃんのときに多く、年齢が上がるにつれて大きく減少していきます。私は、この論文をみたときにレム睡眠が脳発達に重要な役割を担っていたら面白いのではと思い、ポスドクでは睡眠を追求しようと心に決めました。 

ー 脳発達の仕組みを追求していく中で、睡眠へと行き着いたのですね。その後、どのように研究をしていったのですか。

当時、マウスの遺伝子操作を使った睡眠研究となると、国内で研究できるところがほとんどありませんでした。そんな中、注意の脳メカニズムの研究をしようとしていた、理化学研究所・脳科学総合研究センターの糸原重美先生に相談してみたんです。すると、少し分野が異なるものの、糸原先生ご自身が睡眠というテーマにも関心があったこともあり、「うちで研究していいよ」と言っていただけたのです。本当にありがたかったです。

ー まだメジャーでない、フロンティアの研究分野となると、ポジション選びも一苦労なんですね。ポストが得られた後は、研究は順調に進みましたか?

全然です(笑)。理研では、3年半ぐらいノーデータでした。マウスを作っている段階だったこともあるのですが、ネガディブなデータが溜まるばかりでした。ようやく結果が出始めたのが、4年が過ぎたあたり。レム睡眠を制御していると考えられるニューロンが見つかるなどの成果が出てきたんです。でも、何もパブリッシュしていない中で5年が過ぎてしまいました。

 ー え?論文のない時期が5年とは。相当、不安だったんじゃないですか?

いろんな人から、ポスドクでやるテーマとしては攻めすぎなんじゃないか、やばいんじゃないかと心配されたほどでした。でも、4年目過ぎたあたりからデータが出てきていたし、新しいことにチャレンジするにはこれぐらい時間がかかるものと割り切っていたので、そこまで心配していませんでした。

ー 肝が据わっていますね。私だったら、ポスドクで着実に結果を残せるようなテーマを選んで次のポジションにつなげようと考えてしまうかもしれません。

着実にキャリアを積むことも大事ですが、限られた人生の時間を出来るだけ悔いなく送りたいと思っています。だからこそ、虎穴に入らずんば虎子を得ず、ハイリスクハイリターンでも真に面白いと思う研究にチャレンジしていきたいのです。あと、多少性格が楽観的なこともあります。ただ、キャリア形成などを踏まえて十分に長期的に物事を考えてないんじゃないかといわれると、反省すべき点も多々あると思ってます。 

ー キャリアについてはあまり深く考えず、研究は常にチャレンジングに。その研究スタンスの原動力となるものは何でしょう。

僕は自然が好きなんです。柳沢先生が「真実は仮説より奇なり」といつもおっしゃっているように、僕も自然の中にある面白い世界を見出していきたい。そして研究を進めることで、「睡眠とはこのためにあったのか」とみんなが納得するような答えを見つけていけたらと思っています。

 ◆

「自然の中にある面白い世界を見てみたい」という純粋な好奇心が林さんを突き動かしているのですね。その思いがあるからこそ、キャリアに固執しすぎず、リスクを怖がらずに大きなテーマに挑戦していけるのでしょう。今後、林さんがどのように睡眠の謎を解き明かしていくのか楽しみですね。

「睡眠とはこのためにあったのか」と、誰もが納得する答えをだしていきたい -前編 ー

林研究室:http://hayashi.wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/

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